フランス人同士の会話を聞いていると、いつもバカンスの話をしている気がする。厨房で働いている同僚も例外なくそうだった。
先月参加したワイン街道ツアーのフランス人ガイドさんも「11月1日は日本で言うお盆に当たる年初のバカンスで・・・・」と心待ちにしている様子。厨房の人たちにお盆について聞いたところ、Chrysanthème(クリザンテーム、菊)を持って家族j揃ってお墓参りにいくとのこと。なんだ、日本のお盆と同じではないか。
そんな事を皆で話していると、フィリップが現れ「休日は少し後に伸ばしてくれ」と命じられた。この時期、小学校も2週間程休みに入る。そのため、11月上旬は、ラ・プティット・ピエールの街にも大勢の観光客が押し寄せ、Sanglierの研修しているホテルの厨房も休日返上の繁忙な日が続いた。なるほど、皆が休みに入ると忙しくなる。それがホテルなのだ。
フィリップの姪っ子姉妹。左がアレジャ、右がロミ。真ん中がホテルの看板犬。
「なんちゃって日本料理店」にはがっかりさせられたものの、現在フランスの若者の間には、日本のカルチャーが浸透しつつある。
厨房でいっしょに働いているローイックの娘さんは、日本のロックグループGLAYのオフィシャルホームページを随時チェックするほどの大ファン。家を訪ねたら、ビジュアル系の女の子が写ったプリントを見せてくれた。聞けば日本人のKanaというロック歌手だそうで、「Kanaのようになりたい」と言う。金髪を日本人のように黒く染めたロングヘアーが自慢の今どきの16歳だ。皿洗いのサラはドイツ人だが、ドラゴンボールをはじめとする日本のマンガが大好きで、そこから覚えたという片言の日本語を披露してくれた。
いま世界中の注目を浴びる日本料理。
だが、美食の都パリで「なんちゃって日本料理店」が次々に増殖しているという現実を、皆さんはご存知だろうか。
今年初めにパリをたずねた際、サン・ジェルマン地区でそんな「なんちゃって日本料理店」がひしめく通りに出くわした。看板には「KIOTORI」「JAPOTORL」などと書かれ、焼き鳥をイメージしたかのような店名ばかりだ。

店の看板は「KIOTORI」。まるで牛丼の吉野家のような色使い。

こちらは「JAPOTORL」。Japonと焼き鳥を融合させたのだろうか。

カウンターには招き猫の置物。

これが写真入りのメニュー。寿司か焼き鳥のセットを選べる。

注文を終えると、まずは上の写真のようにお味噌汁かお吸い物が出されるが、食器はレンゲだ。それといっしょにマヨネーズかフレンチドレッシングで和えたキャベツの千切りにキュウリとトマトを添えたサラダの小鉢が出てくる。なんだか日本の牛丼屋のサラダと似ているのが笑える。
それをフレンチの前菜のように食べ終えると、いよいよメインのお寿司だ。焼き鳥を注文した人には、お茶碗に盛られたご飯もいっしょに出てくる。
しかし・・・これが不味い。寿司のネタはマグロとエビで何とか日本の安い回転寿司レベルに達していた。だがシャリがぎゅうぎゅうに握ったおにぎりのように固く、味も甘ったるい。醤油をいっぱいつけて何とか飲み込んだ。これで10€ぐらい。若いパリッ子は上手に箸をつかって満足そうに食べているが、およそ寿司と呼べるシロモノではないだけに複雑な気持ちになった。
その後も日本食が恋しくなるたびに、「この前入った店が特別不味かったのかもしれない」と自分に言い聞かせながら別の「なんちゃって日本料理店」を数軒利用した。驚いたことにどの店もメニューや内装がそっくりだ。そして、日本料理と呼ぶには怒りを感じるほど不味いという面でも共通だった。
実はパリだけでなく、ロレーヌ地方のNancyにも「なんちゃって日本料理店」を2軒見つけた。メニューや内装などのコンセプトはパリと同じ。店に入ると、アジア人風の店員からフランス語で「日本人か?」と聞かれた。そうだと答えたら、相手は中国語で何かを喋るだけ。パリの店も中国系と見られるアジア人が働いていた。
日本料理を食べたこともない人によって、偽の日本料理が世界に広がりつつあるのではないか。その疑念は、今も消えない。
ホテルの裏を散歩していても割りと近くで猟銃の銃声が聞こえたりするので、思わず足を止めて引き返したりするほどだ。
先日もストラスブールに向う車中から、鹿の親子連れを見ることが出来た。小さなバンビが何頭も親ジカの後を連なっている姿はなんとも言えず愛らしい。さすがに、早朝にハンターが狩ってきたばかりの鹿の親子が倉庫に横たわっているのを目にした時は、思わず目を覆ってしまったものだ。結局最後まで、吊るされた猟獣の皮を剥くことは出来なかった。

慣れた手つきで皮を剥がすムッシュ・ヴァルタン。

裁いたイノシシのモモ肉をブリデbrider(ひもをかける)する。

塩、タイム、ローリエ、ミニョネット(潰した粒こしょう)、クラーヴ(丁字)で、1ヶ月寝かせる。

塩抜きをしたあと乾燥させ、スモークなどで香り付けする。4ヶ月ほどの手間隙をかけようやく出来上がった”jambon”。

鹿やイノシシのjambonなどシャルキュトリーの盛り合わせ。

イノシシの冷製。

ソースsauce jambonは、マヨネーズ、ヴィネグレット、クリーム、卵の白身、トマト、パプリカ、コルニション、ハーブで作る。

”Terrine de sanglier”イノシシのテリーヌ。

自家製コルニションと供に。

"Rouelles d'omble chevailer
cuit à basse température et pancetta Risotte au basilie"川ひめますのリゾット添え。

右が料理長のジョン=クロード、真ん中が若手のミッシェルと左が魚のセクションショフ、アナイス。

ホテルを切盛りするフィリップの妹アニエス。厨房でダンスを披露。
日本では、その形などからお菓子と思っている人が多いのではないだろうか。
Sanglierもアルザスに行くまではそう思っていた。でも今なら自信を持って言える。クグロフとはパンである。
クグロフはアルザスを代表する食べ物で、イースト発酵させたパン生地にスライスしたアーモンドやくるみ、キルシュ風味のレーズンを入れて焼いて作る。

”Kouglof”クグロフ

”Strudel aux pommes”シュトルーデル
アルザスでは、朝食も焼いたトーストにバターよりもむしろ、パンガトー(菓子パン)やクグロフにコンフィチュール(ジャム)と朝から甘いパンを好んで食べる。ホテル近くのパン屋さんで、包装紙に包まれていて、周りがお砂糖でコーティングされた平らな山の形をしたお菓子を買ってみた。これは、ドイツ菓子のシュトレンというドイツではクリスマスの定番のお菓子だが、フランス語名は何と言うのか分からない。形は違うが、クグロフの作り方とほぼ同じだ。味はクグロフよりもかなり甘く、舌触りはクグロフのそれと同じで、しっとりというより、パサパサしている。アルザスではお茶菓子として食べられる。これもお菓子というよりは、むしろ甘いパンと思って食べた方が良いかも知れない。アルザス地方やドイツでは、クリスマスを家族だけで静かに過ごす。そのため、長い冬の期間、なるべく日持ちがするように、バターの分量を少なめにしてあるからだ。

シュトレン
日本のパン屋さんは、終日営業しているのが当たり前の光景だが、ラ・プティット・ピエールのパン屋は、午前中は、9時から正午までで一旦閉め、再び午後3時から開く。なので、自然に昼の仕事が終わると、すぐにパン屋へ直行するのが習慣となった。
その時間帯になると、常に冷たい北風が吹きつけるなか、パン屋の前には、既に何人かの人が、いまや遅しと開くのを待ちわびているといった状態。確認した訳ではないのだが、昼の作業が長引いてしまい、4時前に駆けつけたときには、すでにお店は閉まっていたりするので、営業するのはほんのわずかな時間なのだろう。
そのせいか、Sanglierの部屋の窓からは、通りをはさんで真向かいに役所、向ってその左隣に薬局があるのだが、週に何度か薬局の前に、それも決まって朝の8時に、ワゴン車でパンを売りに来ている。朝の8時と言っても辺りはまだ夜明け前で真っ暗なのに、いつも同じおばさんがこれもパン袋持参、時間厳守で受け取る光景を目にする。

左のワゴンはホテルに卸しているシャルキュトリーのワゴン車だが、パン屋さんも同じ場所に停まる。
パン屋に限らず、フランスでは、昼休みに一旦お店を閉めるのは当たり前のことだが、スーパーのように、日用品を売っているお店すら無い、ここラ・プティット・ピエールで、しかも車も持たないSanglierにとって、休日や祝日には、お店が軒並み休んでしまうのには、かなり不自由を感じた。
食料品が買えるお店は、このパン屋さんのパンとお菓子、それにワインやお水などで、あとの一軒はtabacタバコ屋で売られている市販のビスケットやチョコレートくらいのものだ。
例えば、仕事が終わって部屋で一息入れたいとなる。マダム・ヴァルタンは、仕事が終わって部屋に戻ろうとするSanglierに、決まって「何か飲まないかい?」と、必ず声を掛けてくれ、赤ワインをグラスになみなみと注いでくれる。そう度々だと、何だか申し訳なく思い、ワインを買いだめしておこう!となるが、幸いにもそれはパン屋さんに置いてあって、事なきを得た、と言った具合だ。これがパン屋が閉まっていたら大変である。
今日は、ストラスブールで開催される“Festi Festin2007 Jeunes Resutaurant Euros D’europe”(ヨーロッパの青年レストラン経営者の協会によって催される食品市)に、フィリップのホテルも参加するため、ホテルからはローイックと私の2人が借り出されることになった。
朝の8時にムッシュ・ヴァルタン(フィリップのお父さん)の運転する車でラ・プティット・ピエールを出発。ホテルからストラスブールまでは、高速で1時間。会場でフィリップと軽く打ち合わせをし、作業の説明を受ける。
少し時間があったので、開場前の会場内を散策。出店している数十店のお店はどうやらアルザス地方にあるお店で、白ワインやチーズ、ハーブ、コンフィチュール(ジャム)やストーブ社の鍋を扱うお店、百貨店ギャラリー・ラファイエットのテーブルセッティングコーナーなど盛り沢山だ。

アルザスのチーズたち。アルザスを代表するチーズに挙げられるのは"Munster”マンステール(ウォッシュタイプ)だが、他の種類も豊富だ。

テーブルセッティングの一例
中でもチョコ作りの職人ショコラティエでもあるミカェル・アズーズさんのお店では、ご本人もみえていて、開場前のひととき、日本語で挨拶を返して下さった。試食したショコラはどれも絶品で、思わずトロリと笑顔になってしまうのが不思議だ。日本でも百貨店に出店したこともある名の知れた職人さんだが、写真撮影の申し出に快く応じてくれた。
今回借り出されたのは、会場内に併設されたレストランで来客に昼食を提供するためだ。数日前に肉担当のクリストフと子羊とソースの仕込みをしたのは、全て今日のメインのものだったということだ。前菜、肉、魚、デセールとフィリップの指示で動く。フィリップはホテルの若オーナーなので、普段は厨房に入ることはなく、この日初めて一緒に仕事をしたことになる。他にホテルからは、スタージュ(研修生)のクロエなどのサービスも何人かが手伝いに来ていて、それと他店からの助っ人で、なんとか無事に昼食を出し終えた。午後からは、なんと言ってもこの日最大のイベントでもある、フィリップによる料理のデモンストレーションだ。
下の料理は、当日フィリップがデモンストレーションをした一品。

ピスタチオをコンカッセ(粗く刻む)にする。

のろ鹿は表面を軽くロティールし、フィレの部分を適当な大きさに切り分ける。

肉に小麦粉、ハチミツの順で衣をつけ、刻んだピスタチオ、くるみ、栗を全体にまぶす。

料理名は”Canon de chevreuil aux trois noix,Chartreuse de Châtaigue aux Endives confites Effeuillée de Choux de Bruxelles,Sauce Grand Veneur”
これに、ムッシュ・ヴァルタンのお手製のgelée de groseille(すぐりのジャム)をfoud de gibier(猟肉のフォン)でデグラッセ(ソースを作るため、液体を加える)したソースをかける。

すぐりのジャム。上の料理のソースに使う。

マルメロのジャム”Coing”。ムッシュ・ヴァルタンはジャム作りの名人。彼の作ったジャムは、朝食からオードブルの下味まで大活躍だ。
Sanglierはクエッチ”の実”Quetsh”(すももの一種)のジャムが大好きだ。うまく説明が出来ないが、アルザスを思うとき何故か、この味が思い浮かぶ。

左端が料理のデモンストレーションをするフィリップ。右端が息子の雄姿を見つめるムッシュ・ヴァルタン。

前菜のうさぎとエスカルゴのテリーヌ。

スープや魚料理。

子羊のひざ肉”Souris d’agneau”
ここアルザスの厨房では、前菜と、肉、魚、デセールの4部門に分かれ、各2、3人で担当する。前菜を任されているのは主にローイックで、肉はクリストフ、魚はジョン=クロード、デセールはフレディが担当。ジョン=クロードを筆頭に、この30代から60代の男性4人が中核スタッフを務める。それにスタージュ(研修生)が1人か2人補助する形で、厨房は通常12人体制での作業となる。
スタッフは皆、この田舎町にはるばるやって来た日本人を珍しがったり、冷静を装ったりと、それぞれ違ったリアクションで迎えてくれた。皆に共通しているのは、こちらがいざヤル気や興味を示せば、とことん懇切丁寧に教えてくれるということだ。
Sanglierは、前菜のローイックの補助につくことになった。彼以外のスタッフはアルザスの地元民だが、ローイックだけはフランス北西部のトゥール出身。フランス料理用語辞典を持参すると、ローイックは次に取りかかる作業の要点をあらかじめ辞書に付箋で示してくれる。
その時教わった作り方や料理を、中休みにノートに絵を描いて残すということをした。Sanglierはフランス料理を学ぶより先に、料理人としての仕事するためこの地に来たつもりだ。観光客のように、仕事中に写真をむやみに撮ることは避けようと心に決めていた。

ある日の前菜”salade tiede champignon cautillantde gambas”
地中海産の大型のエビをpâte à brickパータブリック(フランス風の春巻きの皮のようなもの)で包んで揚げたものに、ジロール茸を添えたサラダ。

中休みに絵にしたもの。

鴨の胸肉ソテー。

このように絵にすることで、いざ料理を皿に盛り付ける際のgarniture(ガルニチュール。料理の付け合せ)を覚える。

"ALLUMETTES AU FROMAGE"
チーズパイの一種。sauce Mornayモルネー・ソースをpâte feuilltéeフィユタージュ生地で包み焼く。
アルザスの白ワイン(vin blanc)
Sanglierはフランスに来る前からアルザスのワイン街道を訪ねたいと思っていた。今年の街道巡りのツアーが間もなく終了すると聞き、急きょ休みをもらって参加した。
この時期、アルザスのワイン畑を巡るのは季節はずれとのこと。確かに、ワイン畑一帯は一部の木を除き、ほとんどがすでに収穫を終え、来シーズンに向けてこれからの厳しい冬に備えているかの様に、しんと静まり返っていた。
この日は、前日までとは打って変わって、どんどん気温が下がり、凍てつく様な寒さに。うっかり薄着姿の自分と、日も暮れてきて、いよいよ淋しくなってきた辺り一面に広がるワイン畑を前に、こちらまで身も心も寒々とした気分になっていった。
このツアーで訪ねたWettolsheimという町の蔵で白ワインを、厨房のスタッフへのお土産にした。

アルザスの白ワイン

ゲヴュルツトラミネール
このワインは「口に含むとキリリと冷たく、辛口で酸味が豊かで、全体的にしっかりしている」とスタッフには好評だった。好みは分かれるところだが、残念ながらSanglierはもっぱら赤ワイン党。辛いなかに甘さが散らばる様に感じてしまうアルザスワインはちょっと苦手だ。
だが、「ビターショコラがあったら更に最高」とのスタッフの声を聞き、やっとワインの甘さが理解できた。地元民が「我らが白ワイン」を誇らしげに語ることに納得させられた。

リースリング

リースリング

ピノ・グリ

フランス人ガイドに教えてもらったコルマールの”MAISON ROUGE”地元の人に人気の店。メニューはポタージュとシェーヴル山羊のチーズのサラダ、ワインはピノ・ノワール。お薦めのタルトフランベにたどりつく前にお腹がいっぱいになってしまい、涙をのんでキャンセルに。



